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おにーちゃん、策略に落とされる
桜雫の前でみっともない姿を見せただけでなく、一八〇センチある俺と変わらない身長差の桜雫にお姫様抱っこをされ、大丈夫だよと抱きしめられている状況に涙が出てくる。
「突然、honeyの顔色が悪くなって焦ったけど顔色が戻ってよかった……原因って何?」
「プライバシー保護の為に黙秘する」
「あー……そう言えばここ窓からの景色が最高なんだよね」
見てみる? そう言って俺の手を引いた桜雫の唇が弧を描く。
その表情に何かを察した俺は、桜雫の手を豪快に振りほどき、距離を取ると腕を組んでため息を付いた相手に噛み付いた。
「誰から聞いた!」
「雪乃さんしかいないでしょ?」
あんっのクソババアァァァァァァァ! 人の弱点をベラベラと話しやがって! もしかして……こいつに今までの黒歴史や元カノがいた事も喋ってないよな……? 喋っていたとしたら……とてつもなくめんどくさい。
「空手で黒帯、喧嘩も強くてコミュ力がモンスター級のhoneyに高所恐怖症っていう弱味があったなんて……かわいい」
「あぁ? 今度かわいいって言ってみろペラペラと喋るその口を二度ときけなくしてやる」
「i like angry faces」
人の話を聞かずマイペースに話を進めていく桜雫は、英語が不自由な俺の頬を撫でた手で、俺の左手をすくい上げ、指先に落とした唇は柔らかく、見上げてきた視線にドクンと心臓が大きく跳ねる。
何ドキドキしてんだ俺の心臓! これは! コイツの無駄に顔がいいからであって、断じて桜雫に対する恋心が芽生えたからではない。
「怖いなら……」
断じて
「一階に場所を変えてようか?」
恋では…………ないんだ……
眉根を下げ、しょうがないなと言った桜雫の困った顔に、淡い恋心を抱いたあさひちゃんの顔が重なり、トクン。と鳴った心の音に苦しさもついてきた。
このまま、一緒に暮らしていけば、確実に俺は男のあさひちゃんと恋が芽生えてしまう……何とかしなければ……まぁ、考えることもない……答えは一つしかない。
「家に帰る」
「Huh? What are you talking about? それって静かな広いこの部屋より玄関みたいな狭い部屋がいいってこと?」
頭、大丈夫? と続けられた言葉に、なんか喧嘩を売られた感じがして目を細めた俺は、慌てて謝りながら機嫌を取りに来た桜雫に肩を落とす。
「お前がどう思おうが、俺の家はあの場所なんだ」「だから? 雪乃さんが両手を広げてお帰りと言ってくれると思ってるのhoney? 雪乃さんは俺にhoneyを託したはずだけど?」
家を出る前に言った母さんの言葉を思い出し、返す言葉が出てこずに項垂れてしまう。
弟を盾に取られてしまっては、反論もできない……だからと言ってこのまま桜雫と住むことになってみろ、心のオアシスである弟との生活どころか俺のプライドまでもが消えて失くなるだろう……
「土下座してでも家に入れてもらう」
「You're crazy.……こんな好条件他にないだろう? 電気代も家賃もhoneyは払わなくていいんだよ?」
「だけど、ここに謙吾はいない」
「What?」
眉根を寄せ、肩をすくめる姿にイラッとした俺は同じように眉根を寄せてみた。
俺を好きだと言うなら、弟の事は調べておくべきだろ? 高所恐怖症を母さんから聞いたって言うなら尚更じゃないか?
「俺のかわいい弟だよ!」
「弟? 彼も来年は中学生だろ? 弟離れしなよ」
「ふざけるな! 小六でも俺より小さくておにーちゃんと俺を見上げてくるまんまるい目で言われてみろお前でもギュッと抱きしめてしまいたくなるほどかわいいんだ! もちろん抱かせてやるつもりはミリもないけどな! 帰ったらお帰りとかわいい笑顔で迎えてくれて一緒に風呂入ったり、明日着ていく服を選んでやったり、ここにはないオアシスが家にあるんだ! だから! 俺は家に帰る!」
「This is already a disease……十二年……十二年もの間、愛おしいhoneyとメールでしか会えてなかったんだよ?」
そう、捨てられている子犬のような顔で訴えてきた桜雫に心は揺らぎ始めてしまい、ダメ押しで「啓吾」と囁いた声によって、彼の策略に落とされてしまった。
桜雫英会話
i like angry faces……怒った顔もかわいいよ
Huh? What are you talking about?……はぁ? 何言ってるの?
This is already a disease……これはもう病気だね
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