10話 妹は兄をインフルエンサーにする(イラストあり)

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 狂犬のように暴れる薔櫻薇を、躑躅はもう怖いとは思わなかった。何年も兄をやってきているのだ。よく知る態度に「またか」という感情しかわかない。  それに(バサラ)は本気で興味がない相手には、李津が初めて交渉に行ったときのようにスルーで対応するだろう。  会話が成立しているのであれば、話す余地があるということだ。 「大人になるにつれてよぉ、叱ってくれる人間が減るんだ。間違った道に進んでも教えてくれることなく、離れて終わり。そんなの悲しいじゃねえかよ。……俺はな、そうなっちまう前にこいつに止められたんだ」  ぽかんと口を開けている李津を、躑躅(つつじ)は一瞥して続ける。 「おまえはどうだ? ここにはたくさん人がいるけど、本気で止めたやつはいるか? 誰がおまえを叱る? いねえなら、兄貴(おれ)がそうしてやらねーとだめなんだよ!」 「クソ、うぜーな!」 「おうおう、うざくて結構! おい、おめーらは自分の意志がねえのか!? 社会から縛られたくないくせに、こいつの言いなりか!? つまんねえチームだな!!」 「おい、そいつらは関係ねえだろ!」  周りの少女たちは躑躅(つつじ)の啖呵に息を飲んだ。  今日、どうしてここに来たのか。その理由を、各々(おのおの)はあらためて自身の胸に問いかけてみた。  目の前でわめいているリーダーには恩があった。  でも、それだけなのか。  恩人だから、リーダーだから。命令されたから、なんとなくついてきたのか?  そして少女たちはひとり、またひとりと確信を持つ。  自分は、自分たちは、紛れもなく薔櫻薇(バサラ)という人間が好きでここにいるのだ。  少女たちの警戒が、ひとり、またひとりと薄れていく。  薄々わかっていた。この抗争が無駄だということを。  あの男が争いを終わらせてくれるなら、荒療治も受け入れよう。少女たちの気持ちがひとつになった瞬間である。 「それからオメーはいい加減、変な男への執着はやめろ! 金と時間の無駄だ!」 「うるせえっ!」  渾身の力を込めて肘を入れると今度こそ、薔櫻薇は躑躅の手を振り切った。  腹を押さえる兄から離れ、憎らしげに睨みつける。 「てめぇに人の恋路を邪魔する権利はねえ。本気でホレてるんだよォ、あたしはあああっっ!!」  薔櫻薇の心の底からの叫び声が、廃工場に響き渡るのだった。
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