10話 妹は兄をインフルエンサーにする(イラストあり)

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 逆光で顔がよく見えない……が、シルエットからして推し(ガクト)のようだ。  二人が愛する人を見間違えるはずがなく、テンションは急上昇する。  ……が、なんか頭身がおかしい。  リア()補正が入っていたとしても、拭いきれない違和感がひしひしと二人の心を侵食する。  彼女たちが知っているのは、9頭身でスタイルのいいガクトだ。プロフに「身長175↑」と書いてあった。実物は遠くにいるからかもしれないけれど、厚底シューズをはいているのにも関わらず、自分たちよりも小柄に見える。  千葉県のレディース(ホンモノ)たちに睨まれたガクトは、一歩も動こうとしなかった。こんなの、獰猛(どうもう)なライオンの檻にむざむざ入るようなものである。  しかし、ゲストがそのまま帰してもらえるはずもない。  神の見えざる手によって、廃工場の中へとズルズルと引きずられると、二人の前にポイッと放り出された。観念したガクトは、しかたなく笑顔を張りつかせる。 「や、やあ。いつも推し事ありがとう。えっと、バサラちゃんとナナカちゃん(・・・・・・)…………だよね?」 「は。誰だよ、ナナカて……」  推しに名前を間違えられたキラリは、ガチでテンションが下がっていた。  いつもなら「ざまあw」などと嘲笑っているところだが、薔櫻薇(バサラ)薔櫻薇(バサラ)でそれどころではない。 「が、ガクト様……? SNSと顔が……? えっ、これ本物??」  本日2回目の「SNSと顔が違う」発言に、ショックを受けるガクトである。  しかし、しぶとくなければ息長くインフルエンサーはできない。こんなことで折れないのが彼の長所だ。 「おいおい、そんなに変わらないだろ?w」 「全然違うけど」  バッサリと。 「で、でも、きみたちだって加工……」 「限度があるだろ。あとなんか臭い」  キッパリと。  薔櫻薇(バサラ)はガクトをまじまじと見つめた。なぜか推しの髪にはゲロがついてるし、頬が泥で汚れている。ここまで来る間になにかあったのかもしれない。  しかしそれを除いてもシンプルに肌が汚く、ダルダルに緩んだあごがみっともない。  これを韓国アイドル風の見た目(ビジュ)まで持っていけるのだから、インターネットには夢がある。  強面(こわもて)のヤンキーにジロジロと品定めされたガクトは、ついに目に涙を浮かべて大人しくなってしまった。
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