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逆光で顔がよく見えない……が、シルエットからして推しのようだ。
二人が愛する人を見間違えるはずがなく、テンションは急上昇する。
……が、なんか頭身がおかしい。
リア恋補正が入っていたとしても、拭いきれない違和感がひしひしと二人の心を侵食する。
彼女たちが知っているのは、9頭身でスタイルのいいガクトだ。プロフに「身長175↑」と書いてあった。実物は遠くにいるからかもしれないけれど、厚底シューズをはいているのにも関わらず、自分たちよりも小柄に見える。
千葉県のレディースたちに睨まれたガクトは、一歩も動こうとしなかった。こんなの、獰猛なライオンの檻にむざむざ入るようなものである。
しかし、ゲストがそのまま帰してもらえるはずもない。
神の見えざる手によって、廃工場の中へとズルズルと引きずられると、二人の前にポイッと放り出された。観念したガクトは、しかたなく笑顔を張りつかせる。
「や、やあ。いつも推し事ありがとう。えっと、バサラちゃんとナナカちゃん…………だよね?」
「は。誰だよ、ナナカて……」
推しに名前を間違えられたキラリは、ガチでテンションが下がっていた。
いつもなら「ざまあw」などと嘲笑っているところだが、薔櫻薇は薔櫻薇でそれどころではない。
「が、ガクト様……? SNSと顔が……? えっ、これ本物??」
本日2回目の「SNSと顔が違う」発言に、ショックを受けるガクトである。
しかし、しぶとくなければ息長くインフルエンサーはできない。こんなことで折れないのが彼の長所だ。
「おいおい、そんなに変わらないだろ?w」
「全然違うけど」
バッサリと。
「で、でも、きみたちだって加工……」
「限度があるだろ。あとなんか臭い」
キッパリと。
薔櫻薇はガクトをまじまじと見つめた。なぜか推しの髪にはゲロがついてるし、頬が泥で汚れている。ここまで来る間になにかあったのかもしれない。
しかしそれを除いてもシンプルに肌が汚く、ダルダルに緩んだあごがみっともない。
これを韓国アイドル風の見た目まで持っていけるのだから、インターネットには夢がある。
強面のヤンキーにジロジロと品定めされたガクトは、ついに目に涙を浮かべて大人しくなってしまった。
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