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楽しそうにガクトを追い詰める薔櫻薇を、一歩下がって躑躅は見守っていた。
「もう人様に迷惑をかけるなよ」とでも言うように、キングダムの大沢たかおよろしく腕を組んで微笑んでいた。
そんな彼だったが、ふと視線を感じて振り返る。
「なっ、なんだよ李津! 黙ってねーで声かけろよ」
ぽつん、と。
フルメイクでイケメン風に変身し、大活躍するはずだった主人公が、しょんぼりと棒立ちしていた。
「兄妹ゲンカつか、ダセェとこ見せちまったな。ははは!」
恥ずかしさをごまかして絡んでくる躑躅だが、そんな所作ですら李津には眩しかった。
なぜなら、妹を見つめていた躑躅の横顔が、いつものアホ面ではなく雄々しく見えて。近くにいたのに声をかけるのをためらってしまったくらいだから。
「いや、すごかったよ。俺はなにもできなかった」
「なんだよおまえ〜」
「……Piss off」
「!? 英語でデレるってことは、カッコよかったってことか?」
「You are so annoying!」
今回の躑躅のツッコミはあながち間違いでもなかったので、余計にイラつく李津だ。
リアルに感じた兄妹の空気感。
他人には踏み込めない絶対的とも思える領域。
兄妹を手探りで紡いでいる李津には尊くて、うらやましかった。
「WTF」
――だが腹が立つので、それを本人に言ってやる道理はない。
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