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廃工場の外で待機していた莉子とつむぎ、そして絹は、もう身を隠すことなく入り口から中をのぞいていた。
「呵呵。夢を覚まさせるためには冷水をぶっかけるのが早かったか」
「あ、あのぉ。うちのおにーちゃん、今日はあまり活躍してないように見えるけどぉ。で、でも、頑張ったのはわかってほしくてぇ〜」
泣きそうになって言い訳するつむぎに、絹は慈愛に満ちた表情で微笑む。
「そうだな。躑躅もりの字がいなけりゃぁ、いつまでも妹から目をそらしていただろうな」
「えっと、じゃあ」
不安げな莉子にも頷いて見せる。
「ありがとう、依頼は完了だ。礼は改めてさせていただこう。それじゃあ、あたしはここまでだ」
手を取り合い、目を輝かせて歓声を上げる妹たちを残して、絹は颯爽とその場を後にした。
……
…………
廃工場を十分に離れてから、絹はスマホを操作し耳に当てた。相手は待っていたかのようにすぐに通話に出たため、思わず苦笑を漏らす。
相手と一言二言交わしたあと、絹は小さく笑みを浮かべた。
「――賭けはあたしの負けですよ。ええ、あなたも聞いていたのでしょう? それでは夏休み、楽しみにしていますよ。ハウル嬢」
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