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時は戻って1カ月前。夜の7時半。
すっかり日が落ち、春先の夜風が容赦なく通行人の体温を奪おうと待ち構えるみぎり。
関東のとある駅で電車を降りた有宮李津は、駅を出て目をぱちぱちとしばたたかせた。
「えっ、ロボは? 近未来、は?」
先ほど海外から日本に到着したばかりの彼である。アニメや映画で想像していた日本と違いすぎて、戸惑いが隠せない。
カラフルなネオンどころか街灯すらない。暗闇にぽつぽつと浮かぶ住居の明かりがむなしさを増幅させた。
「マジか……ここに住むのか、俺」
本音がげろっと出る。
ずっとニューヨークのど真ん中に住んでた分、景色のギャップがすごい。
春から高校2年生になる彼がほぼ一人暮らしをする町は、過去にタイムスリップしたのかと勘ぐりそうになるほど文明が見当たらなかった。
「でも、気持ちいいな……」
目を閉じると風の音が聞こえる。
ニューヨークでは経験したことのない優しいそれが、李津の心を落ち着かせていく。
わがままを言って親元を出てきたのだ。弱音は吐きたくない。
よし、と気合を入れ、新しい土地で一歩踏み出す。
「ま、日本にもウーバーイーツくらいあるだろー」
ご明察、日本にもウーバーイーツはある。ただし、こちら配達圏外でございます。
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