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「ちょ、ちょっと待てええええっ!?」
キャリーケースを放り出した李津は、橋に足をかけている女の子を後ろから羽交締めた。思いきり体重をかけ、橋のふちから引き離そうとする。
「んんっ!? なぜっ!?」
本気で引いているのに、体重はどう考えても利があるのに、自分より一回り小さな体は岩のようにまるでビクともしない。
「は、離してぇ〜! 逝かせてください〜っ!」
意外にも、関取のパワーを持つ女子だった。
マジでヤバい。
このままだと道連れである。
日本初日にゲームオーバーなんてクソゲー、やってらんねえ。
となれば、李津も本気で叫ぶ。
「離したら飛び降りる気だろ!?」
「飛び降りっ、させてくださいぃ〜〜っ!」
「俺は気にしてないから、早まるな!!」
「えぇっ!? 別にあなたのせいじゃないですぅ」
あれだけ大騒ぎしていたのに、スンと真顔になった女の子。柵から手を離して振り返る。
「……というかぁ、誰? 痴漢??」
「……」
女の子は自分のお腹に回されている手から逃げるように後ずさった。
完全に不審者と被害者。さげずんだ視線が突き刺さる。
李津は息を整えながら思った。
なんだろう、この腑の落ちなさは。と。
「死ぬ前に一発やらせてくれ!!」と頼んじゃうトンデモラノベでも、もう少し優しく対応してもらえない? と。
ゆえに、腹が立ってきた。
「……ふざ、けんなよ……俺は通りがかりの一般人だ! 目の前で人が飛び降りようとしたら止めるくらいの良識はある!!」
「ひいいいぃっ!?」
「あと水死体はむくんでグロい! 女の子には勧められないやめとけ!」
「うえぇえ〜〜〜っ!?」
引き止める理由がおかしいのは、中二時代にその手の本を読んで無駄に知識があったせいだ。しかも心からの親切心で言っている。
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