1話 初めまして、妹です

6/14
前へ
/265ページ
次へ
 女の子は想像したのか顔を引きつらせると、そろりと橋のふちから距離を取った。 「ったく……。もう馬鹿なことは考えるなよ」  捨て台詞を吐くと、李津は大きくため息をついて肩を落とした。  15時間のフライト後でこれだ。時差で眠気もあるし足は棒のようだし空腹だしでクワトロ役満。一刻も早く休みたいのに目的地も見つかっていない。人目がなければ地面に寝転んで駄々をこねたかった。  投げ出したキャリーケースを無言で起こすと、李津は暗澹(あんたん)な気持ちとともにそれを引きずり、三度(みたび)歩き出した。 「……馬鹿なこと、かなぁ」  後ろから声がした。 「生きていても、いいことないよぉ」 「……」  気の毒とは思うが、こういうネガティブな人には変に首を突っ込まないほうがいい。  李津は心を鬼にして、声を無視することにした。  整備がされていない田舎道。  大きくゴロゴロと音を立てるキャリーケースのおかげで、あの子の小さな声もそのうちかき消えるだろう。 「きっと明日の朝とか、わたしが死んだってニュースがぁ〜」 「なんだよっ!?」  かき消えるどころか、やけにはっきりと耳元で聞こえた。  イラッとして振り返れば、黒い塊がすぐ背後で跳ねる。 「うえっ、そ、相談に乗ってくれるんですかぁ〜!?」 「なんでそうなる? 勝手に着いてくるなっ!」 「だってぇ、あなたしかいないんですぅ!」 「関係ねー!」 「でもぉぉ〜!」  黒髪の少女は、長い髪の間から必死な瞳で訴えかけた。すごく必死。  なぜなら彼女、もうこれを逃したら相談する相手がいないから。 「…………」 「〜〜〜〜!」  無視してもにらみつけても、一切引かない女の子に。 「…………」  グゥ、と腹が音を上げ(・・・・)。 「〜〜〜〜!?」 「……はあ。……なあ、この辺に食べ物売ってる店ある?」 「あ! あるよ〜〜!!」  とうとう李津の方が折れたのだった。
/265ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加