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女の子は想像したのか顔を引きつらせると、そろりと橋のふちから距離を取った。
「ったく……。もう馬鹿なことは考えるなよ」
捨て台詞を吐くと、李津は大きくため息をついて肩を落とした。
15時間のフライト後でこれだ。時差で眠気もあるし足は棒のようだし空腹だしでクワトロ役満。一刻も早く休みたいのに目的地も見つかっていない。人目がなければ地面に寝転んで駄々をこねたかった。
投げ出したキャリーケースを無言で起こすと、李津は暗澹な気持ちとともにそれを引きずり、三度歩き出した。
「……馬鹿なこと、かなぁ」
後ろから声がした。
「生きていても、いいことないよぉ」
「……」
気の毒とは思うが、こういうネガティブな人には変に首を突っ込まないほうがいい。
李津は心を鬼にして、声を無視することにした。
整備がされていない田舎道。
大きくゴロゴロと音を立てるキャリーケースのおかげで、あの子の小さな声もそのうちかき消えるだろう。
「きっと明日の朝とか、わたしが死んだってニュースがぁ〜」
「なんだよっ!?」
かき消えるどころか、やけにはっきりと耳元で聞こえた。
イラッとして振り返れば、黒い塊がすぐ背後で跳ねる。
「うえっ、そ、相談に乗ってくれるんですかぁ〜!?」
「なんでそうなる? 勝手に着いてくるなっ!」
「だってぇ、あなたしかいないんですぅ!」
「関係ねー!」
「でもぉぉ〜!」
黒髪の少女は、長い髪の間から必死な瞳で訴えかけた。すごく必死。
なぜなら彼女、もうこれを逃したら相談する相手がいないから。
「…………」
「〜〜〜〜!」
無視してもにらみつけても、一切引かない女の子に。
「…………」
グゥ、と腹が音を上げ。
「〜〜〜〜!?」
「……はあ。……なあ、この辺に食べ物売ってる店ある?」
「あ! あるよ〜〜!!」
とうとう李津の方が折れたのだった。
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