1話 初めまして、妹です

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「OK。で、なに。親とケンカか?」 「そういうんじゃなくてぇ」  女の子の返答は歯切れが悪い。  だったら友人関係か。李津は気づかれないように舌打ちをした。 「あんたはどうしたいの?」 「だからぁ、わたしなんて消えたらいいのに……って」 「ん? そいつが消えればいいだろ。本人に聞いてみた?」 「え、えぇ〜」  コンビニから漏れる明かりが女の子の困惑した表情をまざまざと照らし出した。  相談相手を間違えた?と、戸惑っている。そんな顔である。 「えっと、自分の人生の責任者は自分だろ。関係ない人間にとやかく言わせるなよ」 「でもぉ、わたしがいると、みんな嫌な顔をするからぁ」 「誰かがあんたに向ける悪意を、あんたの人生を消費してまで叶えてやる道理なんてあるのか? 全員が全員、性格が合うわけもない。集団行動に文句あるヤツが、別の居場所を見つければいいんだよ」 「そういうものかなぁ」 「そういうものだ。あーそうだ。あんたにピッタリな魔法の言葉を授けようか」  首をかしげる女の子の前に、李津は人差し指を立てた。そして神妙な顔つきで続ける。 「いいか? 次にダルいこと言われたら、こう言えばいい」  一言一句聞き漏らさまいと、息を飲む女の子に向かって。 「『って、ばあちゃんが言ってた』」 「…………」  マジ顔だった。 「ばーちゃんが言うことなら、大抵の日本人は納得するらしい」 「そ、そうかな……?」  当然、納得していない女の子は、暗い顔で手元のパンへと視線を落とす。 「そもそもわたし、言い返せなくてぇ。自分に自信、ないからぁ……」  李津が絶賛したコンビニパンは、皮の部分しかかじられていなかった。  それが、中身を知らずに存在を否定されている彼女と重なり、李津の胸にコショウを噛んだようなピリッとした痛みが走った。  だからだろうか。 「……おまえの目」  目を回しすぎたトンボの頭が落ちるように、思いがけずポロリと。 「今まで見た誰よりも、俺はきれいだと思ったけど」  言葉は口からこぼれていた。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?」  声なく叫んだ女の子はそっぽを向いて、すごい速さで前髪をなでつけて顔を隠した。同時に、彼女の身体はちょっとした暖房器具くらい熱を持ちはじめる。
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