acht

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 自分の席に腰を下ろした烈己は、感情を無くした人形のような顔をしていた。ゆっくり視線だけを江へと動かし、薄く口を開いた。 「──いま、なんて?」 「え? だから、色々あって羽川と付き合うことになりました」 「……………えっ? ……ぇええええ──っ?!?!?! まって、色々あっての色々に何が集約されてる?! えっ?! 昨日の昼までそんな空気ゼロだったよね?! いや、マイナスだった! なんで? え?! なに? 俺だけ一日が24時間じゃないとか?!」  烈己は勢いよく立ち上がり、興奮しすぎて顔を真っ赤に染めながら一気に最後まで捲し立てた。 「わかんないわかんないわかんない! いや、こわい、むしろ、怖い! 江の豹変が最早親友の俺ですらついていけない!」 「うん、わかる。俺だってついていけてない。でもまあ、一応報告ね」 「…………江、羽川のこといつのまに好きになってたの?」 「え? いや、今も別に好きかどうかは不明」 「そんな残酷なことサラッと言わないでよ! ますます江がこわいよ!」 「別に、両思いでなくても付き合うことはあるだろ。あいつは俺と付き合うことに執着してるみたいだったから叶えてやった。それで気が済むならそれでな」  素気ないそぶりで話す江の顔をまじまじ覗いてから烈己は何かを納得したのか一人頷き、再び椅子へ腰をおろした。 「まあ……当事者の二人がそれで良いなら外野が口出すことじゃないか……」 「外野ぁ? よく言う。俺と羽川をくっつけようとしてたくせに」 「ひぇっ? いや、してないっ、ただみんなで仲良く出来たらなぁ〜って」 「仲良く──ねぇ」じとりと江が烈己を見る。 「そだよ、みんなで仲良く、ぴーす!」烈己は硬くぎこちない笑顔の横にピースサインを作り笑う。 「じゃあ今度仲良く3Pでもする?」 「サッ!! ○◆〆%※■〜〜〜ッ!!??!!??」  顔面に全ての血液が集結したかのように、烈己の首から覗く全ての肌が燃えるように赤く色を変える。頭から湯気が出てそうだと、江はぼんやりその姿を眺めた。 「冗談だよ。アイツなんかに烈己を触らせたりしないよ、安心して」 「あん、あんしん? て、てゆうか、羽川は江の彼氏、かれしだから……ね? た、大切にして??」  一気に疲れて老け込んだ烈己はヨロヨロと机の上へ腕を伸ばしてそのままぐったりと目を瞑った。 「──江……」 「なあに?」 「羽川に泣かされたりしたらすぐ言うんだよ? 俺、一矢報いるからね」 「うん、わかった。その時は介添えやるね」  あまりにも軽いノリで返してきた江をチラリと烈己は一瞥し、再び机に打ち伏せた。
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