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neun
クラスは別々、放課後は部活で会えない。そのせいで登下校も一緒にならない。
「──いつ会えるんだ?」
耳を下げたデカいわんこが携帯画面越しに絶望していた。
「んー? 昼休憩?」
「それじゃあクラスメイト以下だっ」
「うるせぇなぁ、今寝る前に顔見てるじゃん」
「お前に触りたい」
「触りたいいぃ? 突っ込みたいの間違いだろ」
「………………」
「否定せんのかっコラッ!」
ほとんど画面に視線を寄越さなかった江が、ようやくそこで秀を見た。
「否定……はしない。お前にたくさん触りたいのは本当だから……」
「体目当てにしか聞こえないけど大丈夫そ?」
江は思わず目を細めた。
「一緒に眠ったり、どこかに出かけたりしたい……」
「本当にお前は見た目に反して乙女だよな」
「好きに言え」
「ぷっ、開き直った」
「別に無理なら良い──お前の嫌がることはしたくない」
「そんなこと言ってたらあっという間に自然消滅だな、俺たち」
「ええっ!!」
「ブッ! そんな悲壮な声出すなよ」
「やっぱ俺はお前とデートがしたいっ、お前と会いたい!」
秀は画面に食いかかるようして声を張った。
「最初からそう言え、俺はハッキリ願い事を言わない奴の機微をわざわざ読んだりしないからな」
「あと……シたぃ……」
「それは先に言わなくて良いの! 馬鹿か!」
「お前が今はっきり言えって……」
「単細胞過ぎんだよ! お前本当にαか?!」
「お前の怒るポイントが読めない……」
秀は叱られた飼い犬のように目を潤ませ、恋人とは難しい生き者だと思い知る。
「明日も早いんだろ? また明日、学校でな」
「……うん」
「この世の終わりみたいな顔すんな。毎回これじゃあ俺疲れて仕方ないんだけど?」
「……ごめん」
「二度と謝んな! 切るぞ! おやすみ!」
「江」
「なんだよ」
「好きだよ」
「おやすみ!」
そう言い放つと、江はほぼ一方的に通話を切った。
「〜〜ったく、今更だけどマジで重い男選んじゃったわ、人選ミス!」
携帯を充電器に繋ぎ、唯一点けてあったベッドサイドの明かりを落とすと早々に江は布団の中へと潜った。
「……ほんと、人選ミスなんだよ。もっと優しいΩがいくらでもいんだろ……」
江は目を強く瞑ると赤ん坊のように丸くなって眠った。
秀に好きだと言われるほど、自分が嫌いになるのはなぜなのだろうか──。
江は眠り落ちるその瞬間まで、ずっとその疑問に思考のすべてを張り巡らせた。
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