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3 白い制服
ぼくが学校に来ようが休もうがまったく無関心の担任教師から、あのクソ長い夏休みの間行なわれるであろう夏季セミナーのお知らせと申込書を手渡された。
「いい加減やる気出してくれよマコトくんよ。おまえなら結構いい線の大学でも行けるんだから、ちょっとはわが校の進学率に協力してくれよ、な?」
と言われましても、こちとらまったくやる気がないんで。ご容赦ください。
幼稚園からの延長上にある人生のただの通過点にしか過ぎない大学が、この教師にはまるで終着点にしか見えないんだ。まあもっとも、ぼくにだってその先は見えないんだけどね。そういう意味ではこの教師とぼくは同類項ってことで、だから簡単にその期待を裏切るなんて、ぼくにとって何の呵責もないのだけどね。
だから帰り道だって、こうしてまっすぐ家に帰るんじゃなくて、ふたたびこのだだっ広い交差点を何度も何度も行き来しているんだ。だってぼくは蟹だからね。だからきっとボーとしてたんだ。あんなに近くまでそれがやってきて、そして肩と肩がぶつかってはじめてその存在に気づいたんだ。
「あ、ごめんなさい」
雑踏の中でそんなきれいな声で言われた。交差点の真ん中で何かにぶつかったとは思ったが、まさかそんなものとは思わなかった。
それは髪の長い、真っ白い制服を着た女の子で、そうしてとんでもなく美人で、なんだかそれはそこにいちゃいけない子だと、ぼくはそのときそう思ったんだ。
だってそれはテレビや雑誌でしかお目にかかれない、とんでもなく稀有な存在だったんだから。
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