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4 すべての神は
とうぜんぼくは走り去る。いや逃げだしたと言っていい。ぼくは逃げたんだ。あの真っ白い制服の女の子から。だってぼくは臆病な蟹なんだもん。しかたがないんだ。
そうしてぼくは自分の住むマンションに駆け戻った。ぼくしかいないこの部屋に立ち尽くしていても、それでもなにかに追われるように、ぼくの心はいつまでも心地よい焦燥感で満たされていたのが不思議だった。
まあ答えは簡単なんだけどね。それがびっくりしたのか照れたのか、いや隠れていた磯でいきなり人間に見つけられた蟹の反応だ。そう、恐れたのだ。
いったいあの子は何だったんだろう?あんなきれいな子がどうしてあんなところに?どうしてぼくなんかとぶつかったんだろう?
ぼくは思う。この世のすべての神は悪魔である、と。じゃなきゃあんなきれいな子が、ぼくの目の前に、たとえ一瞬でも現れるわけはないのだから。ああ、あの制服は『青倫館高校』のだ。たしか去年まで女子高で、今年から共学になった高校だと記憶している。なんだぼくは否定しながらも心の隅でそういう心地よさを享受してるんじゃないか。これはやっぱり悪魔の所業に違いない。いやきっとぼくに対する嫌がらせなんだ。人間が嫌いなこのぼくへの、罰なのだ。
ぼくはすねたようにベッドに転がり、まるで熱病のような胸の鼓動を、どうにか抑えようとひたすら努力を続けていた。
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