6月20日(2) SIDE-A

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6月20日(2) SIDE-A

 デスクに座り、会社の共有サーバに入っている仕事の進捗リストを見ていると、同期の安室が僕のところに来た。僕は片手を上げて挨拶をしたが、どうも様子がおかしい。 「成沢。おまえ、大丈夫なのか?」 「なにが?」  他人事のように返すと、彼は青ざめた表情で幽霊を見るように僕の頭から爪先までを見ていた。何か仕事でやらかしたのか。そんなはずはないと思うが。すると安室は、突然僕の右肩に手を置いてその感触を確かめるように力を入れた。 「痛いよ。どうしたんだよ」 「ああ、悪い。でも、おまえ……」  そこまで彼が言った時、右耳から左耳を巨大な針が貫通するような強烈な頭痛に襲われた。苦悶の表情をしながら頭を抑えていると、しばらくしてその痛みは消えた。顔を上げると、安室が惚けた顔をしながら辺りを見回していた。 「……で、どうした?」  すると安室は、自分が何故この場所にいるのか分からないように首をひねった。 「あれ、何だったけ?」 「僕に聞かれても」  結局、安室が何を言いかけたのか思い出そうとしていると朝礼が始まり、いつもの業務が始まった。正直、安室のことよりも藍の方が気になり、業務をしながらも度々メッセージが返ってきていないかを確認していた。  仕事を終えて帰宅しても、藍はまだ帰ってきていなかった。今年の春、彼女は異動になり別の支店で勤務している。  同棲を始めたのも同じ時期だが、僕らは早く帰宅できたほうが料理を作り、遅く帰宅したほうが風呂を掃除するというルールを設けていた。いつもはほとんど藍が早く、ドアを開けた瞬間に食欲をそそる匂いがして、そんな時はとても幸せな気分になった。  有り合わせの材料で野菜炒めを作り、風呂掃除も終えて携帯電話を見ながら時間を過ごした。藍は九時になっても帰ってこず、彼女が務めている支店に電話してみた。だが、すでに営業時間が終了していて繋がらず、おまけにその支店には連絡先を知っている社員がいなかったので確認もできなかった。  会社の人間には、安室を除いて僕らが交際していることも同棲していることも秘密にしていたのでなるべく大事にしないようにしていたが、こんなことなら日中に確認をしておくべきだったと後悔した。  もしかして、彼女の親族になにかあったのだろうか。そう思うといても立っても居られず、彼女の実家に電話を掛けてみた。
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