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リュックの中へ手を突っ込んで、モフっとした感触を探した。ミニクマ太は柔らかくて触っただけでわかるから、家の鍵をつけておくのにぴったりだ。 そこまで考えて選んだわけじゃないだろうけれど、彼女にもらった物の中でもこれはかなり重宝している。 モフモフの先につけた鍵で玄関を開け、扉を引いた。 「どうぞ」 「お邪魔しまぁす」 「誰もいないから」 言いながら扉を閉め、内鍵をかける。 道路に面した戸建の我が家では常にこうだ。 「なんか今日、緊張する」 うちに誰もいないのはいつものことだし、彼女もそれを知っているはずなんだけど。 「なんで? 制服じゃないから?」 「んー、なんとなく」 「なんとなくね。飲み物持ってくから先行ってエアコンつけといて」 そう言って靴を脱ぎ、脱いだ靴を案外律儀に揃えながら、うん、と返事をする彼女を追いてキッチンへ向かった。 部屋は昨日なんとなく片付けたし、家を出る前にチェックもしたから大丈夫だろう、なんて考えながら熱気の籠るキッチンで冷蔵庫を開けると、冷気が流れ出てきて気持ちよかった。 ほんの少しの間でもその冷気にうっとりできるのは、小さな喜びだ。 母親の目がある時は許されない、我が家での禁止事項だから。 それから目で飲み物を探した。 彼女の好きな銘柄のミネラルウォーターを発見して、ちょっとテンションが上がる。 たまたま安かった、なんて理由で買ってくる母親本人は、飲み物の銘柄なんて気にしない人だけど、心の中でナイスと言ってやった。 迷いなくそれに手を伸ばして、自分も同じでいいか、と隣り合ったそれを取り出そうとして、手を止める。 次来るのがいつかはわからないけど、彼女用に取っておこうと思った。 だから自分用には緑茶を選んで冷蔵庫を閉めた。
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