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「あ、見て見て! かわいー」
「っ、ちょっ、急に走るなって」
何の前触れもなく繋いでいた手を引っ張られるのにも、結構慣れたと思う。
なのにその度、ドキドキする。
背中のリュックが揺れてガサガサ音がした。ミニクマ太もきっと、突然揺さぶられて目を回しているだろう。
彼女の衝動をモロに感じて躓きそうになっているカッコ悪いシーンの割に、俺はこの瞬間が好きだ。
今日は何に惹かれたんだか、と思いつつ、強要された変なリズムに乗って足を動かすのだってやぶさかでない。
それなのに、彼女は繋いでいた手を不意に離した。というより、振り解いた。
こっちは従順に引っ張られていたというのに、その彼氏の手を強引に振り解くとはなんぞや。
なんていじけたせいで顔が傾いた。多分、口もへの字に歪んでいるはずだ。マスクのおかげで見えないのは助かるけど。
でも、振り解かなければ離れないほど固く彼女の手を握っていたらしい自分の深層心理に気付かされて気恥ずかしい。
結局負けてるなぁ、と思う。
できるのはせいぜい、もっと強く握っていてやればよかった、なんて反省なのか意地悪なのかを考えるくらい。
マスクの中のへの字口はもうすっかり逆向きの弧を描いているのだから、完敗だ。まあ、俺について来い、なんてキャラじゃないからいいんだけど。
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