101人が本棚に入れています
本棚に追加
「莉乃……」
名前を呼ぶと、彼女は目を閉じた。
全てを受け入れる覚悟でもしたかのようなキス待ち顔がかわいい。
一人で予習した時にはなかった胸の高鳴りに気づいた。
顔を近づけると、またフローラルが香った。
五感刺激に耐え得るだけの予習ができていなかったのは反省点だ。
けど、今はもう、予習の時間じゃない。
覚悟を決めて、伏せられた瞼から唇に視線を移した。
ベッドの上で横たわる彼女にキスをするなんて初めてだから、心臓が飛び出そうに緊張している。それでも、これからすることに対してより大きな覚悟を要するのは彼女なんだろうと思うと、自分が怖気付くわけにいかないと思った。
だけど、曲げようとした腕は少し震えていた。腕力がものすごく弱いとか、体重が特別重いってわけじゃないのに。
徐々に距離を近づけていくと、またフローラルが香った。それは彼女の体温と混ざり合って、俺を誘っているとしか思えなかった。
そっと触れ合わせた唇は、いつも通り柔らかだった。二人の唇だけがくっついていて、俺は彼女の匂いを嗅いで、彼女はただ静かに目を閉じていた。
閉じられた瞼の向こうで、彼女はいま何を思っているんだろう。
何かの儀式の始まりのようにも思える無音の時間に、胸のあたりが切なくなった。キュンとするって、もしかしたらこれかもしれない。
いつもと違う体勢のせいか、キスだけで一つになれたような気がした。
けど、こんなんじゃ足りない、と暴れ出しそうな、もっと獰猛な自分が自分の中に隠れているのにも気づいている。
横たわる彼女にキスをした今、自分が男だったのをものすごく自覚させられた感じがして、そういう自分に対して目一杯ブレーキをかけているみたいな。
とにかくゆっくり。
必死でそう言い聞かせて、一度唇を離した。
これからついに実践だと思うと、余裕だなんて全く思えなかったけど。
最初のコメントを投稿しよう!