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彼女はまだ目を閉じたままだった。 だから、本当にいいのだと解釈し、もう一度唇を触れ合わせる。 角度を調節するんだったのを思い出して、唇を浮かせて顔を少し傾け、もう一度触れさせた。 そうしていつもよりもっと、唇の感触に神経を集中させてみる。 彼女の唇が特別柔らかいのかは、比較対象を持たない俺にはわからないけれど、唇に触れるものでこんなに心地いい物体は他にないよなぁ、と思った。 優しく食むように弾力を確かめる。 それを何度か繰り返したあとゆっくり離れると、彼女が目を開けた。 「どうしよ……やっぱり、緊張するかも」 困惑したように、彼女は告げた。 勇敢彼女でも、やっぱりあの一線は簡単に越えられないのか、と思った。同時に、果敢に飛び越えようとされなかったことに少し安堵した。 変なところで勇敢なくせに、いざとなったら臆病な彼女が愛おしい。 「莉乃が怖いならやめよう?」 「でも……」 彼女は泣きそうな顔で俺のことを見上げている。 そんな顔をさせてまでしたいなんて思わない。無理やりっぽいのは自分の趣味じゃないし、やっぱり、笑っててくれる方がいいし。それに、こっちだってすごく、緊張してるし。 「大丈夫、無理しなくていいから」 「ごめんっ、優大。すきっ、ほんとに大好きっ」 「うわっ」 彼女の細い腕に捕まえられて、ぐいと抱き寄せられた。 結果密着することになって、これはこれでいろんな問題が生じてくるんだけど、と体に力が入る。 一線を越えるのは怖いくせに、ハグは問題ないのが不思議だ。俺は、ぎゅっとしたらいろんなスイッチがいっぺんに入るせいで、平静を装うのが毎回大変なんだけど。
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