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それでもやめようと言ってしまった手前、今更狼になるわけにはいかない。
「よしよし」
覆い被さったまま彼女の頭を撫でて、自分のこともついでに宥めようと思った。
いつ触ってもツルツルした彼女の髪は、極上の手触りで俺を癒してくれるはずだ。
「ありがと……でも、ほんとはしたいよね」
同情するような口調に思えたけれど、それは多分、彼女なりに男の性衝動を慮ってくれたからなんだろう。
せっかく考慮してくれるのなら、耳元で囁くのはいけないと、そこにも気づいてくれたらよかったんだけど。
でも、その割に冷静さを保てたのだからよかったとしよう。
ただ、このまま密着状態ではやっぱりいろいろと不都合があるからと、覆い被さっていた体を起こしてあぐらをかいた。
Tシャツの裾がふんわりするよう、摘んで前に引っ張る。
「……そりゃ男だし、してみたいとは思うけど、莉乃に後悔してほしくないから」
案外包み隠さず言えたのは、彼女の豪速球を受けた後だったからか、実践が延期された安堵からか。
つられた様に起き上がった彼女が、なぜか俺と同じようにトップスの裾をふんわりさせている。
そこに隠したいものなんかないだろ? と思ったせいで、ちょっと緊張が解れた。
「……じゃあ、練習しよ」
訊ねるというのじゃなく、もう決めた風な口ぶり。
「は?」
「怖いけど、初めてはやっぱり優大とがいいの。だからその時のために、練習」
さらっと凄いことを言われた気がする。
せっかく起き上がったところを押し倒さなかったのを、父親ならなんと言うだろう。
「練習って、何するの?」
「それは……わからないけど」
勇敢彼女は時々突発的。
でも、いい考えかもしれない。もうそろそろ次に進んでもいいのかなとは思っていたけれど、それにしてはまだたどたどし過ぎる二人だとも思うから。
「じゃあ今日は、いつもと違う場所にキスしてみるとか」
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