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彼女が走り寄ったのはやる気なさげなクマのぬいぐるみだったはずなのに、そのモフモフの手を二、三度上下に動かしたら、すぐにアクセサリーの方へ吸い寄せられて行ってしまった。 なんという変わり身の速さ。クマのぬいぐるみに同情したくなった理由は考えないでおきたい。 しゃがみ込んでキラキラした細かいものを眺める彼女を、俺はぼんやりした感じで少し離れたところから眺めた。 一瞬置いてきぼりにされたことなんて、もう気にしていなかった。何かに夢中になってしまった彼女を観察するのは楽しい。 彼女は、キラキラとかモフモフとか、小さな小さな物とかが大好きだ。 そういうものたちのどこがそんなに彼女を惹きつけるのか、俺にはよくわからない。女の子ってみんなそうなんだろうか。 店内を見渡すとそう思える。女子ばっかりだ。 照明が明るすぎるせいで安っぽいガラスや銀色の塊でも輝いて見えるだけなんじゃないかと正直思うんだけど、それは言わないでおいた方がいいことなんだろう。 だって彼女には、ものすごく素敵なものに見えているみたいだから。 けど、それっていいよなぁ、と思う。 彼女に見えるのと同じに見えるメガネなんかがあったらかけてみたい。毎日がもっと楽しくなりそうな気がする。 そしたらそのメガネには一体なんて名付けるのがいいだろう、と特に必要ないことを考える時間は、俺にとっては大事な時間だ。 でもそこで、ふと思い出した。理科室の新しいビーカーを持ち上げ何気なく窓の方に向いた時、キラキラして案外キレイに見えたっけ。それと似ているのかもしれない。 似てるの?  心の中で問いかけてみたけれど、彼女はまだピアスに夢中だった。 そんな彼女の耳にはピアスの穴なんてない。開ける予定だって、聞いてないんだけど。
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