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莉乃(りの)、穴開いてないじゃん」 少し近づいて声をかけた。 真剣な眼差しで見つめる場所の上の方に、ピアス、と書いてあるのに気づいていないとか。彼女はちょっとうっかりさんだから、あり得ないことはないと思った。 「うん、どこにもね」 彼女は俺の方を見て、ニヤリと笑った。ピアスしかないことには気づいていたらしい。 けど、どこにも、ってなんだよオイ。 「だったらピアス見てもしょうがないんじゃないですか?」 「かわいいから見たいんですよ。もう、わかってないなぁ先輩」 「俺いつ先輩んなった?」 「優大(ゆうだい)は十七でしょ? 私まだ十六になったばっかだもん」 もん、のところが高くなる言い方は子供みたいだけど、彼女が言うのはなんでか許せる。 「まあ、そうだけど」 確かに三月生まれの彼女は十六歳四ヶ月で、なったばかりと言えなくもない。対して四月生まれの俺は、もう十七歳三ヶ月。 同級生だけど、俺と彼女の誕生日は一年近く離れている。 「先輩、これ見てください。めちゃかわいくないですか?」 「まだ続くのそれ」 「黙ってノって」 おねだりなのか命令なのかわからないけど、仕方ないから傍にしゃがみ込んで、ぐっと顔を近づけて、ピアスを覗き込むフリをする。 「……ああ、ほんとだ。莉乃ちゃんの方がずっとかわいいけどね」 偽物だけど、先輩の肩書きをもらったおかげでしれっと本音を零してやれた。 これだから大人は肩書きにこだわるのだろうか。
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