100人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「莉乃、穴開いてないじゃん」
少し近づいて声をかけた。
真剣な眼差しで見つめる場所の上の方に、ピアス、と書いてあるのに気づいていないとか。彼女はちょっとうっかりさんだから、あり得ないことはないと思った。
「うん、どこにもね」
彼女は俺の方を見て、ニヤリと笑った。ピアスしかないことには気づいていたらしい。
けど、どこにも、ってなんだよオイ。
「だったらピアス見てもしょうがないんじゃないですか?」
「かわいいから見たいんですよ。もう、わかってないなぁ先輩」
「俺いつ先輩んなった?」
「優大は十七でしょ? 私まだ十六になったばっかだもん」
もん、のところが高くなる言い方は子供みたいだけど、彼女が言うのはなんでか許せる。
「まあ、そうだけど」
確かに三月生まれの彼女は十六歳四ヶ月で、なったばかりと言えなくもない。対して四月生まれの俺は、もう十七歳三ヶ月。
同級生だけど、俺と彼女の誕生日は一年近く離れている。
「先輩、これ見てください。めちゃかわいくないですか?」
「まだ続くのそれ」
「黙ってノって」
おねだりなのか命令なのかわからないけど、仕方ないから傍にしゃがみ込んで、ぐっと顔を近づけて、ピアスを覗き込むフリをする。
「……ああ、ほんとだ。莉乃ちゃんの方がずっとかわいいけどね」
偽物だけど、先輩の肩書きをもらったおかげでしれっと本音を零してやれた。
これだから大人は肩書きにこだわるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!