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まあ、あざとかろうと理知的だろうと、彼女が彼女であればどっちだっていいんだよなぁ結局、と思う。
それより、しょんぼりモードに引き込まれないよう彼女を救出しなきゃ。
「いや、そんなこと言ってないよ?」
「え? じゃあまだ、可能性ある?」
「かもね」
何の可能性だよ、なんて言うのはいけない。彼女は今、俺の後輩になりきっているのだろうから。しかも片思い設定だ、きっと。
「莉乃、もういいなら何か飲みに行こう。喉乾いた」
「それってデートの誘いですか? 先輩」
ほら。やっぱり先輩後輩ごっこはまだ続いている。だからってこんな場所でノリノリ、ってわけにもいかないのはわかって欲しいけど。
「かもしれないね」
「やったあ!」
無邪気に喜ばれたら敵わない。
だから黙って手を繋いだ。
無邪気彼女最強。
隣を見ると、彼女は動きを止めて、呼吸さえ止めているかのような顔で俺のことを見ていた。
多分、不覚なやつだ。
そう思ったらマスクに隠れた口元がまた緩む。
この緩みは、苦いコーヒーなんか飲んで隠そうとしたって逆にデロデロに溶け出してきそうだな、と思った。
そしてそれは、マズイ。別段男らしくもない俺だけど、こんな場所でデレデレ大解放になるのはどうかと思う。
「行こ」
「うん」
歩き出すと、従順な犬のように彼女も歩き出した。
後輩になったり犬になったり、一人何役だよ、と思うと笑える。
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