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「俺決まった」
注文カウンターでメニューを覗き込んだままの彼女の後頭部に向かって言うと、パッと顔を上げてこっちを見てきた。
丸い目を、また少し大きくしている。
「え、いつになく早いね」
彼女は時々、一言余計だ。
本当ならカッコつけてアイスコーヒーでも頼んで、一切の甘さも加えないそれを美味しそうに飲む、なんていうのが理想なんだけど、今日はダメだ。
さっきの嬉しそうな笑顔が結構効いているせいで、表情筋に喝が入らないと思う。それを無理やり隠そうとしてもきっとうまくいかない気がするから、逆に激甘をチョイス。
「俺これで。プラスキャラメルシロップで」
指をさした俺に、はい、と可愛げのある営業スマイルをくれたお姉さんに、こいつ激甘等かよ、なんて心の中で思われるのは微妙だけど仕方ない。
いま甘いものを補充しないで彼女と一緒に居続けるのは危険だ。そう。俺が危険な男になってしまう、なんて。
でも危険な男ってなんか憧れるよなぁ、とぼんやりする数秒は心地いい。
「キャラメルマキアートにキャラメル足すってどんだけ甘党?」
せっかくのぼんやりタイムは、猫に引っかかれたような気分で瞬殺された。
「いいから早く決めなよ」
「あ、今ちょっと男出した。私これにします」
本気で早く、と言うより前にオーダーを済ませるところは賢いのか。
後ろが行列じゃなかったのは救いだけど、レジのお姉さんをイライラさせていたら申し訳ないと思い、すみません、とマスクの中で呟きながら頭を下げた。
こんなんじゃ、危険性なんて全然ない気がする。
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