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「お待たせ」 「お、ありがと」 「なんでこっち? ソファーがよかったんじゃないの?」 椅子を引きながら訊ねた。 「え、見られてた?」 「ソファー、座り心地良さそうだなぁと思って」 目で追っていたことはさらっと流しておく。 「うん。でもこっちにした」 ドリンクを目の前にしてマスクを取った彼女は、なぜかニヤニヤ笑っている。 「そっか」 「いや、理由聞いてよ」 「はいはい。どうしてですか?」 マスクを取りながら、言われた通りに質問した。 「うん。こっちの方がね」 ストローでくるくるグラスの中身をかき回しながら、チラチラ視線を寄越してニヤニヤ顔でこっちを見てくる彼女。 最初ココア色だったグラスの中身は、トッピングしたホイップクリームとすっかり混ざって柔らかなブラウンになっていた。 俺はストローを指先で摘んだまま、首を傾げた。 「こっちの方が?」 「座った時、近くなるから」 へへ、なんて笑われた。 お互いテーブルに乗り出すように肘をついたこの状態だと、二人の距離は多分直径三十センチくらい。半径にしたら十五センチしかないのかよ、とわけのわからないぼやきで脳内が埋まった。
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