7月7日

1/2
前へ
/2ページ
次へ
「……雨……止んだみたいだな」 水滴のついたグラスを持ったまま、立ち上がったお前が窓から外を見て呟いた。 七夕の夜、不意に家にやってきたお前。約束もなく訪ねてくるなんていつ以来だろう。 持参したお酒とつまみは好物だらけで、僕は、久しぶりに二人で飲む心地好さに包まれた。 「……星は見えないだろう?」 僕の問いかけに、窓ガラスを開けたお前が覗き込むように空を見上げた。 「…………」 返事の代わりに、グラスに口をつける。 「……どーなんだよ」 相変わらずのお前に、僕はソファから立ち上がるとグラスを持って隣に並んだ。 見上げた空には、風に乗って流れていく雲と、輝きを増す月。 こんな都会の真ん中では、星を探すのも大変だ。 まだ星を探して、夜空とにらめっこをするお前に頬が緩む。 黙ったまま二人で見上げる夜空。 氷の溶け始めたグラス。 「……雨が止んだから逢えるのかな」 一年に一度しか逢えない恋人同士は、どんな夜を過ごすのだろうか……。 少しだけ見えた星に思いを馳せる。 「………俺は………一年に一度しか逢えない恋人同士なら、友達のままがいいな……」 月を見たまま呟いたお前の横顔に、なぜか、胸の辺りがチクッとする。 恋人じゃなくても……… いつでも傍に居られるなら…… 僕は、水滴で濡れてしまった指先で、グラスをぎゅっと握りしめた。 「………それでも……愛を確かめ合いたい日が欲しいよ」 思わず漏れた言葉は、お前の耳に届いたのだろうか……。 書けない短冊に願いを込めて、僕は星の見えない空を見上げた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加