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「……雨……止んだみたいだな」
水滴のついたグラスを持ったまま、立ち上がったお前が窓から外を見て呟いた。
七夕の夜、不意に家にやってきたお前。約束もなく訪ねてくるなんていつ以来だろう。
持参したお酒とつまみは好物だらけで、僕は、久しぶりに二人で飲む心地好さに包まれた。
「……星は見えないだろう?」
僕の問いかけに、窓ガラスを開けたお前が覗き込むように空を見上げた。
「…………」
返事の代わりに、グラスに口をつける。
「……どーなんだよ」
相変わらずのお前に、僕はソファから立ち上がるとグラスを持って隣に並んだ。
見上げた空には、風に乗って流れていく雲と、輝きを増す月。
こんな都会の真ん中では、星を探すのも大変だ。
まだ星を探して、夜空とにらめっこをするお前に頬が緩む。
黙ったまま二人で見上げる夜空。
氷の溶け始めたグラス。
「……雨が止んだから逢えるのかな」
一年に一度しか逢えない恋人同士は、どんな夜を過ごすのだろうか……。
少しだけ見えた星に思いを馳せる。
「………俺は………一年に一度しか逢えない恋人同士なら、友達のままがいいな……」
月を見たまま呟いたお前の横顔に、なぜか、胸の辺りがチクッとする。
恋人じゃなくても………
いつでも傍に居られるなら……
僕は、水滴で濡れてしまった指先で、グラスをぎゅっと握りしめた。
「………それでも……愛を確かめ合いたい日が欲しいよ」
思わず漏れた言葉は、お前の耳に届いたのだろうか……。
書けない短冊に願いを込めて、僕は星の見えない空を見上げた。
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