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午後になっても止まない雨。
道行く人の傘の群れに紛れながら、近くのコンビニに入った。
あいつの好きなお酒とつまみを手に取る。
お互い制服を着てる頃から変わらない、あいつの好み。
毎日、当たり前のように一緒に居たのが、今は少し懐かしい。
傘とビニール袋で塞がった両手。マンションを見上げ部屋の灯りを確かめて、俺は小さく息を吐いた。
「……どうした?」
約束もしないで訪ねた俺を、少し心配そうに見つめる瞳。
逢いたくて……
その言葉は、やっぱり伝えられない。
「……暇してるだろうなと思って」
「……してるけど……雨濡れなかったか?」
少し拗ねながら、タオルを取りに行くお前の背中を追いかけるように、部屋に入った。
渡したビニール袋から、お酒とつまみをテーブルに並べると、ふわっと笑う顔が愛おしい。
いつものくだらない話と、仕事の話。
俺の仕事について、誰よりも肯定してくれるのは相変わらずだな。
この時間が愛おしい……
だから失くせない。
少し酔って、無防備になるお前の襟元から覗く白い肌。思わず目を逸らすと、グラスを持ったまま立ち上がった。
「……雨、止んだみたいだな」
誤魔化すように、窓際に立つ。
「……星は見えないだろう?」
星?……お前の一言に、窓ガラスを開けて覗き込んだ。
風に乗って流れていく雲と輝きを増す月。それより俺には、さっき見たお前の白い肌が目に焼きついて……
熱くなった喉を冷ますようにグラスに口をつけた。
「……どーなんだよ」
何も知らず隣に並ぶお前。その肌をまた見てしまったら……
星を探す振りをして、夜空を見上げた。
氷の溶け始めたグラス。水滴が指を濡らしていく。
「……雨が止んだから逢えるのかな」
お前の言葉に、今日が七夕だったことを思い出す。一年に一度しか逢えない恋人。
親友としてなら、こうしていつでも俺を迎えてくれるお前。
これ以上望んだらいけない……
「………俺は………一年に一度しか逢えない恋人同士なら、友達のままがいいな……」
心に蓋をするように、呟いた。
恋人じゃなくても………
いつでも傍に居られるなら……
「………それでも……愛を確かめ合いたい日が欲しいよ」
確かに聞こえたお前の言葉。
そっと隣を確かめる。グラスをぎゅっと握る小さな手が愛おしい。
愛を確かめ合いたい………
毎年、短冊に書いていた願い。今ここで、その手を握ったら、お前は叶えてくれるのか?
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