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チュセは木製の扉の隙間から中を窺う。
ブルーグレーのシャツの大きな背中が見え、チュセの鼓動が跳ねる。
息を吸い込み、思い切って声をかけた。
「カイザス、鍵を返しに来たわ」
カイザスは少し静止した後、振り向かずに答えた。
「椅子の座面に置いとけよ」
「今日も礼拝堂の掃除当番なの?」
「お前こそ今日も湖の奉賛当番なのか、見上げた信仰心だな」
「別に、そんなんじゃないわ。誰も行きたがらないから引き受けてあげてるだけ」
チュセはわざとサバサバとした人格を装う。
本当は小心者で雨上がりの土のように湿っぽい性格なのに。
心に秘めたこの計画を成功させるためには、そうする必要があるからだ。
「今更水龍様から距離を置こうとしたって意味などないんだがな」
「そうよね、贄は奉賛の回数では決まらないもの。水龍様はすべてお見通し。すべては水龍様の御心のまま」
チュセは声を落とした。
「だけど、私は皆の気持ちも解るの」
そこでカイザスは漸く振り向いた。
短く刈った黒髪がヒョンヒョン跳ねている。
相変わらずのくせ毛なのだ。
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