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カイザスがチュセの腕を掴むが、チュセはそれを振りほどいた。
「言ったはずよ。私はもうカイザスに近付かない方が良いって。もう充分思い出も作れたわ。…水守の所へお嫁に来てくれるような信心深い娘を誘って」
「そんな娘はいない」
チュセはじっとカイザスを見つめた。
「いる筈よ。敬虔で心優しい娘が。私みたいに打算的で自分勝手な人間じゃない可愛い子がね。私とのことは忘れて」
「…そんな簡単に忘れられるか」
「忘れるのよ。それが、カイザスの為だわ」
チュセは笑ってみせる。
「あれだけしてくれたんだもの。私は贄には選ばれないわ!カイザスには感謝してるの。我儘を聞いてくれたばかりか、贄を回避する協力までしてくれて。やっぱりカイザスは昔から変わっていない優しい人。それがわかっただけで充分よ」
「チュセ…」
「呼ばないで!」
俯き鋭く言葉を発したチュセに、カイザスが息を呑む。
「二度と私の名前を呼ばないで」
チュセはカイザスに背中を向けて駆け出した。
カイザスは追って来なかった。
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