61人が本棚に入れています
本棚に追加
儀式
儀式の日、霧のような細かな雨に濡れながら、チュセは水守の家に向かっていた。
布を被って腰を紐で結わえるだけの質素な白装束が、湿って肌にくっつく。
チュセは下ろしたままの髪をかきあげた。
足の下の水を含んだ土が、グジグジと音を立てる。
水守の家の前には贄候補の娘達が既に集まり、所在なげに立っている。
総勢十三名。誰一人口をきく者はいなかった。
皆一様に緊張した面持ちで視線を落としている。
…一人を除いて。
艶やかにウェーブした見事なブルネットを背中に流し、背筋を伸ばしてピンと立っているのは、フリカだ。
唇は引き結ばれているが、その瞳には強い光が宿っている。
チュセは薄ら寒くもその度胸の良さに感じ入る。
随分前から覚悟が出来ているはずのチュセとて、昨晩は良く眠れなかったというのに。
「全員揃ったようだな」
カイザスに手を引かれたジョセフがヨタヨタと姿を現した。
娘達は揃ってそちらを向く。
「皆、鈴は持っておるな」
娘達は手首に掛けた鈴を掲げて見せた。
チュセは慌てて腰紐に下げていた鈴を取り、水色と白の組紐を手首に掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!