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「では、これより湖に向かう。皆一列になってついて来るように」
カイザスが、湖に向かう小道にジョゼフを誘導し、娘達がそれに続く。
先頭はフリカ。
最後尾はチュセだ。
鬱蒼と茂る枝が空を覆う小道を、一同は進む。
奉賛の殆どを請け負っていたフリカとチュセには通い慣れた道だ。
薄暗く湿った空間に、控えめに鳴る鈴の音と足音が響く。
少し肌寒く感じ、むき出しの腕を撫でれば、小さな水滴が掌を湿らせた。
チュセは顔を上げて、娘達の頭越しにある逞しい背中を見つめる。
カイザスは少し背中を屈めながらジョセフを介助している。
ブルーグレーのシャツとくせっ毛。
広い肩幅。少し右に傾く背中。
切ない気持ちを抱えながら、そっと見つめ続けたその後ろ姿も、今日で見納めだ。
カイザスとチュセの未来は、この先二度と交わることはない。
お互い、信じるものも目指すものも違うのだから。
カイザスが木戸の鍵を開け、屈んでジョセフを背に負う。
この先の湖に向かう道は坂になっていて足場も悪い。このところ急激に衰えた老人にはキツいのだろう。
力強く足を踏みしめて歩く、次期水守の青年の後に贄候補の娘達が続く。
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