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本当の事
カイザスは目を見開き、小さく首を振る。
「そんな、なぜ…いつの間に。やっぱりジョセフがお前を脅していたのか?!」
「ジョセフは私をずっと疎ましがっていたけれど、あの日以来、一切何かをされることはなかったわ。私も要らぬ反感を買わないように心掛けていたし」
「…あのジジイは、お前を見殺しにしようとした。本当に殺す気だったんだ」
チュセのように水龍や儀式を否定する人間は、この村においての危険要素。
ジョセフは、歴代の水守からの口伝に従い、排除しようとしただけだ。
そう、単なる使命感からそうしただけ。
殺人でさえ水守には許されている。
「ジジイは俺だけを水から引き上げた。そして、お前を助けに行こうとする俺を押さえ込み、口を塞いだ」
カイザスはその時のことを思い出しているのか、苦しそうに眉を寄せ、肩で息をする。
「だけど、お前はなんとか自力で岸に辿り着いて、倒れた。…俺はジジイに必死に頼んだんだ、お前を見逃してくれ、助けてくれって、なんでもするから、と」
チュセは初めて聞かされる事実に胸を突かれ、息を呑む。
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