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「心配でしょうがなかった。回避させる方法を考えたけど、下手に接触すればジジイに疑われるし。だから…お前から協力を頼まれた時は渡りに船だと思った。売り飛ばすには、きっと生娘の方が好まれるのだろうと思って」
「そんなにまでして…カイザスはやっぱり優しい」
チュセはカイザスを見上げ、その沈んだ青い瞳に目を合わせた。
「でも、もう良いんだよ。私のことで悩むことは無い。カイザスも水守なんか止めて大工になれば良い。フリカと一緒になって分家して、独立すれば…」
「俺は、お前と連れ添いたい。ずっと決めていた」
カイザスが掴んだ腕を引き寄せ、チュセの額がブルーグレーのシャツに触れる。
チュセは頭上から降り注ぐ切ない告白を聞いた。
「俺の建てた家に二人で住むんだ。贄の儀式が終わればジジイに成り代わって俺が水守になる。そうすれば、もう誰にも何も言わせない。誰の目をはばかることなくチュセと過ごせる…そう思って、その日が来るのを心待ちにしていたのに…!」
「カイザス…」
思いがけないカイザスの望みに、チュセの心が揺れる。
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