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目前の存在が、生物としての強者であることを本能的に感じ取っていた。
しかし、押し寄せた激しい水泡に揉みくちゃにされたチュセが再び目を開けた時、チュセの身体は大きな空気の泡に包まれていた。
喉を撫でて、呼吸が出来ていることを確かめる。
『我の声が聞こえるか、童』
頭に直接響いてきた声に戸惑いつつ、チュセは見下ろす。
じっとこちらを窺っているかのような水龍が目に入った。
チュセは頷き、その後、急いで声を上げた。
「き、こえる!」
『我はお前らが水龍と呼ぶ者。長くこの湖の主となり水源を護ってきた』
チュセは、水龍が真に存在したことに、目にしたことも無い神聖な生物と会話が出来ている事実に震える。
夢のような光景だが、ぐっしょり濡れた髪と衣服、倦怠感、喉の痛み…身体を取り巻く感覚はリアルで、これが紛れもない事実であるとチュセに告げていた。
そして、チュセはふと思い出す。
一緒に湖に落とされた幼なじみの事を。
「水龍様!カイザスを!一緒に湖に落ちた男の子を…助けて!」
『あの童か…良いだろう水守を操り助けさせよう…』
チュセは空気の壁に手を付いたまま、ホッとして膝を折る。
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