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「そうだ、お金を払う!最近花嫁衣装のオーダーが入ったからお給金を弾んでもらえる約束…」
カイザスは立ち止まり、チュセを振り返る。
そして、見たこともないような怒りを孕んだ目でチュセを睨みつけた。
チュセは息を呑む。
「…ごめん」
チュセは俯き、込み上げる涙を堪えた。
…やっぱり駄目だ。
いくらカイザスが精力旺盛な若い青年でも、嫌いな女は抱けないのだ。
「カイザスは私の事嫌いだもんね。こんな浅はかな真似をする人間も許せないんでしょ」
カイザスは黙っている。
チュセは震える息を吐き目を瞬くと、顔を上げて笑って見せた。
「他の人に頼むよ。気分を悪くさせてごめんね。今までもうっとおしくてごめん。金輪際まとわりつかないから」
チュセはカイザスに背中を向けて早足で歩き出す。
押さえ込んでいた涙が溢れ、呼吸が乱れる。
だけど、泣いていることは悟られたくなかった。
だから、流れる涙を拭うことはせず、背筋を伸ばして大股で遠ざかった。
しかし、水守の家の前を通り過ぎ、帰路に続く道にさしかかった時、チュセの耳が足音を拾った。
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