水龍様

1/8
前へ
/94ページ
次へ

水龍様

「解放…?」 カイザスはオールを持つ手を止めて、チュセを見る。 チュセは頷き、湖の水面に指先を浸した。 「御先祖の中に呪術師がいたそうよ。それで、湖に繋がる水脈を全部封じて、水龍様をこの湖に閉じ込めたんだって」 「なんだってそんな事を?」 「村の水源を常に綺麗に保つため、涸れさせないためだよ。水龍様は水脈を辿って移動する。元々この湖にも立ち寄っただけだったそうよ」 閉じ込められた水龍は仕方なく湖に留まった。 元より永遠ともいえる長い時を生きる身であるから、少しの間くらい人間に付き合ってやっても良いかと諦めた。 水源を護り、他所から村の存在を隠すことを請負うことを承知したが、その代わり条件を提示した。 「それが贄の儀式か」 「そう。村人は快諾したそうよ」 他所の地で迫害され続け、逃げてきた民は、安寧の地を渇望していた。 十年に一度の犠牲でその平和な暮らしが守られるのなら、安いものだと思ったらしい。 「贄は水龍様の餌ではないの。水龍様が開放されるために集めた駒」 「駒?」 「贄に選ばれる条件は、信仰の厚さや見目ではないのよ。家業も未通であるかどうかも関係ない」
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加