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水龍様
「解放…?」
カイザスはオールを持つ手を止めて、チュセを見る。
チュセは頷き、湖の水面に指先を浸した。
「御先祖の中に呪術師がいたそうよ。それで、湖に繋がる水脈を全部封じて、水龍様をこの湖に閉じ込めたんだって」
「なんだってそんな事を?」
「村の水源を常に綺麗に保つため、涸れさせないためだよ。水龍様は水脈を辿って移動する。元々この湖にも立ち寄っただけだったそうよ」
閉じ込められた水龍は仕方なく湖に留まった。
元より永遠ともいえる長い時を生きる身であるから、少しの間くらい人間に付き合ってやっても良いかと諦めた。
水源を護り、他所から村の存在を隠すことを請負うことを承知したが、その代わり条件を提示した。
「それが贄の儀式か」
「そう。村人は快諾したそうよ」
他所の地で迫害され続け、逃げてきた民は、安寧の地を渇望していた。
十年に一度の犠牲でその平和な暮らしが守られるのなら、安いものだと思ったらしい。
「贄は水龍様の餌ではないの。水龍様が開放されるために集めた駒」
「駒?」
「贄に選ばれる条件は、信仰の厚さや見目ではないのよ。家業も未通であるかどうかも関係ない」
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