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カイザスは黙っている。
「むしろ、言い伝えなんて信じていないこと、疑問を抱いていること…村を出たいと望んでいること、…外の世界に憧れを抱いていること」
チュセは小さく笑う。
「それが贄の資格なの。まさに当てはまるでしょ」
カイザスは片手で顔を覆い、愕然と呟いた。
「ずっと、お前は知っていたのか。いずれ贄に選ばれることを」
「…ごめむし」
「そこでそれ言うか?本当にお前って奴は…!」
カイザスが伸ばす手にチュセも応える。
舟の中央で二人はキツく抱き合った。
「俺も行く。お前がいないこんな村で生きてる意味がない」
「それは出来ないの。一度に外へ出れるのは一人だけなのよ」
「離れたくない」
「カイザス、この湖はもうすぐ涸れる。水龍様が贄を使って施した解呪の術がもう少しで完成するから。そうなると村の存続は難しくなる」
「そんな事はどうでも良い。お前以外はどうなっても俺は心が痛まない」
チュセはカイザスの胸に耳をつけ、その鼓動を確かめる。
大好きだったカイザス。
そう、チュセにとってもカイザスは特別だった。
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