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両親とさえ理解し合えず疎まれて、どうしたって馴染めない村の人間達の中で、唯一心を許せるのがカイザスだった。
この村を出ていく事を決めた時も、たった一つの心残りはカイザスだけだった。
だから、どんなに冷たくあしらわれても諦められなかったのだ。
「カイザスなら村を出てもやっていける。大工の腕も良いし、器用だもの。私が居なくたって大丈夫だわ」
カイザスはチュセを更に強く抱き込む。
「嫌だ。どこへも行くな、俺を一人にしないでくれ」
チュセはキツく目を瞑った。
閉じた目じりから涙が落ちる。
それでも嗚咽をぐっと堪え、カイザスを説得する。
「私は随分前から覚悟してたの。ううん、ずっと心待ちにしてたくらいなの。この村は私にとって牢獄だった。贄の抜擢は私にとっての救いだったのよ。…だから、ごめんね。私は行く」
「いやだ、チュセ、置いていかないで」
子供のように懇願する声に胸がきりきりと締め付けられる。
この少年のように縋る青年を、残していくのは辛い。
これからこの村に起こることと、カイザスの苦悩を想像して辛くなる。
それでも奥歯をかみ締め、その気持ちを押しやる。
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