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それは後ろからどんどんと近付いてくる。
チュセは慌てて涙を拭い、顔をキッと引き締めた。
「おい」
カイザスに肩を掴まれ、チュセは立ち止まる。
そして、振り返らずに平静を装って応えた。
「なに?」
この期に及んで説教でもするつもりだろうか。
追い打ちをかけるような真似は止めて欲しい。
ちなみに他の人に頼むなどというのはハッタリだ。カイザス以外の男に身体を触れさせるなど絶対嫌だ。
「相手になってやる」
あまりにも予想外の言葉に、チュセの頭は思考を停止した。
そして、次に強い罪悪感に襲われた。
「あ、あの、カイザス…やっぱりさっきのは…」
「明日の夕方、仕事が終わったら西の森の作業小屋に来い」
「え、えっと」
「覚えてるよな、俺の家の木材置き場があるところだ」
「お、覚えてる」
昔良く遊んだ場所だ。
それだけ言うと、肩から手が離れ、足音は遠ざかっていった。
チュセは暫くその場所から動けなかった。
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