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贄の資格
チュセとカイザスが住む村は、山に囲まれた盆地にある。真ん中には湖が有り、川のない村の唯一の水源だ。
そして、そこには水龍が棲むという。
元々水龍の住処であった湖の周りに、戦火に追われて逃げてきた先祖が住みついたのが村の始まりらしい。
「あの湖の水が常に澄んでいて枯れないのは、水龍様の加護のお陰なんだ。だから、水龍様のご機嫌を損ねてはならないんだよ。ご先祖さまが結んで下さった契約をしっかり守らなければならないんだ」
毎年恒例の光景だ。
学校に上がったばかりの子供達を集めての湖見学。
水守がその案内役を務めるのだ。
チュセは空になった籠を抱えながら、その脇をそっと通り過ぎる。
「約束を守らなかったらどうなるの?」
子供のひとりが質問する。
「水龍様はこの湖から居なくなってしまうんだ」
「居なくなったらどうなるの?」
「湖の水が淀み、それどころか干上がってしまう。私達は生活が出来なくなってしまうんだよ。この村を捨てて他所に出ていかなければならなくなってしまう。怖いだろう?」
チュセは苦笑いをする。
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