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そうやって子供達の恐怖心を煽り、水龍様に畏怖の念を抱かせる。
それが水守のお役目なのだ。
今の水守のジョセフはもう高齢だ。確か今年の夏で八十になると聞いた。
そろそろ次の水守を決めないとならないと、村の寄り合いで話し合われているらしい。
…チュセには関係ないが。
この村は湖のお陰で豊かだ。
作物もよく育つし、取り囲むように茂る森では、鹿や猪も狩れる。
染物や製鉄などを営むことも出来る。
他の地域からの流通がなくとも、充分に生活が成り立っていた。
村民は皆、この村の者同士で結婚し、家庭を持ち、一生を終える。
それが当たり前だと思っているからだ。
家に戻ったチュセは、調理台の上に籠を置き、仕立屋の両親を手伝うために工房へ向かう。
そして、仕事が終わったら…
チュセは頬を熱く火照らせた。
作業小屋の前に立ったチュセは躊躇した。
小屋の窓のカーテン越しに灯りが漏れている。
先に着いたカイザスが中で待っているのだろう。
わかっているが、足が動かない。
ここまで来て怖気付くなんて、情けない。
仮にも自分から言い出したことなのに。
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