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龍の棲む村
チュセは腕に下げていた籠を祭壇に下ろし、掛布を捲った。
籠の中には橙色の果実が詰め込まれている。
チュセは一番上にある果実をひとつ掴み、振りかぶって思いっ切り湖に投げた。
ポチャンと音がして、凪いだ水面に波紋が広がる。
微かに吹く風が、チュセのくすんだ黄褐色の前髪を揺らす。
チュセはその波紋が収まるのをじっと待ってから、再び籠に手をやった。
空の籠を携えて細い小路を上り、小枝で編んだ垣の間にある木戸を引いた。
幾ばくか広い道に出て、木戸の把手を南京錠で施錠する。
それから、木立の向こうにある灰色煉瓦の建物に視線を移す。
後れ毛と前髪を整え、服装の乱れを確かめた。
高鳴る胸に手を当てて深呼吸をすると、チュセは足を踏み出した。
「鍵を返しにきました」
見慣れた戸口から声をかければ、建物の奥から返事が返ってきた。
「ご苦労さまー、鍵はカイザスに渡してくれ、礼拝堂にいるよー」
「はーい」
チュセは予想通りの答えに胸を弾ませ、礼拝堂へ向かう。
建物の角を曲がると直ぐに、円錐型の白い建物が現れた。
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