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私の婚約者
初めて彼と会ったとき、まるでおとぎ話に出てくる王子様みたいだと思った。
「彼がお前の婚約者に決まった、一条御影君だ。挨拶なさい」
あれは庭の薔薇園が見頃を迎えた春のある日。
九歳になったばかりの私は父に連れられ、婚約者だという彼と対面した。
さらりとしたミルクティー色の髪に、同じ色をしたやさしげな瞳。にこりと微笑んで、「よろしくね、麗華ちゃん」とはにかむ姿は、私なんかよりもずっと可愛くて、かっこよくて、美しかった。
「……よろしく、お願いします」
対する私は容姿もパッとせず、愛想も悪くて、可愛げのない子どもだった。勉強やスポーツ、芸術の才能もなく、持っているのは”この国の経済を率いている大企業の社長令嬢”という肩書きだけ。
そんな私が、こんな王子様みたいな男の子と将来結婚できるのは、その"肩書き''のおかげだった。
だから、彼と初めて会ったとき、同時に「この子はかわいそう」だとも思ったのだ。
私がもっと美人で頭も良く、スポーツや芸術の才能にも恵まれた女の子だったなら、きっと彼は、御影は幸せになれたのにと──。
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