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お昼になると仕事は終わり、お父さんは僕に「ふうふ事典」を貸してくれた。いつの間にここまで大きくなったのだろうか。半年ほど見ない内に2倍ほどになったように見える。
「なかなかに増えたろう?」
お父さんはニッと口角をあげた。僕は無言で応えた。
2029年『夫婦』という文字が旧LGBTQのひとつの団体によって改正を求められるという事案が発生した。『夫婦』は男と女、異性の繋がりの色が濃い言葉とのことだった。生まれて2歳だった僕は覚えていないが当時はかなり大きな問題になったらしい。結局『夫婦』という言葉は改正されなかった。
しかし、何も変わらなかった訳ではない。そう、ここで登場するのがお父さんだ。お父さんは『夫婦』という言葉は残しつつ同性愛者も納得させる方法として「ふうふを別の文字で表現する」というものを考案した。初速こそ悪かったものの、受け入れられ出すとそれはすぐに浸透し今に至るというわけだ。
それからというもの「ふうふ」は尚も増え続けている。旧LGBTQはもちろん、結婚の記念に2人だけの「ふうふ」を創りたいという人たち、更には植物や動物との繋がりをという人も現れる。今となっては珍しくないけど。
ふうふ事典をめくりながら僕は今日のことをまとめていく。
「『夫婦』、『戦友』、『上下』、『愛卍』…」
本当に多い。説明書きにも目を通しながらどうしてできたかを考える。
「ん?」
パラパラとめくっているとあるページが目についた。
「これって…。」
目についたのは朝一番に訪れた2人が提示した『正典』と書かれるふうふだった。その説明書きにはこう書かれていた。
「正文と典子という個人名からなる。」
その名前には聞き覚えがありすぎた。
「…父さん…自分でも忘れてるじゃないか。」
ため息をつきながらレポートの最後に付け足した。
「この仕事はAIに任せた方が良いだろう。」
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