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「いらっしゃいませ!」
少しクセのある音が出るドアを開けると、店の奥から威勢の良い声がする。いつものヒカリさんの声だ。
彼が勤める中古レコード店『本町ストア二号店』は横須賀中央駅から商店街になっている大通りを進んだ先にある。
まわりは再開発中なのか、整地されて今は駐車場に使われている区画が目立つ。いずれはここも立ち退きに遭ってしまうのでしょうか。
「おう、マリーちゃんか」
私、今沢 真理恵に気付いたヒカリさんは、テーブルの上にアコースティックギターを置いて立ち上がる。
どうやらお客さんがいない間、店員である晶子ちゃんを相手にギターを弾いていた様子。
「え?マリーさん?」
背中を向けて座っていた晶子ちゃんが振り返る。と、その視線が私を捉えたまま動かなくなってしまった。
「ど、どうしたの?晶子ちゃん」
私は心配になって速足でふたりのいるテーブルへと向かう。
「妖精だ。ここに妖精がいる。マリーさん、相変わらずお綺麗ですね」
恥ずかしながら、晶子ちゃんは私に見惚れていたみたいだ。
私の容姿は、よく西洋人に間違えられる特徴が多い。茶色い髪、白い肌、紺色の瞳に高い鼻。
私はよく、母に似ていると言われて育って来た。そんな母も祖母に似ていたらしい。きっとそのお祖母ちゃんも、そのお祖母ちゃんも……
ウチの女性はきっとあの能力だけでなく、この容姿も受け継いで来たのだろう。
よく気味悪がられたりするし、学校ではいじめられたりもした。だから晶子ちゃんのように言ってくれる人がいるのは嬉しい。ちょっと恥ずかしいけど。
「また海を見に来たの?」
私が晶子ちゃんの隣に座るのを待ってからヒカリさんが訊ねる。
「ええ。適当に時間を潰して、いつものピアノがあるカフェで待ってるね」
「わかった」
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