Prologue:田部井 誠治

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 文字どおり新生ギタリストを迎えて、これから精力的に活動しようとしていた矢先。ミュージシャンが演奏を、ライブハウスが場所の提供を行うことができない世の中になってしまった。  『ひまわり』の活動も水面下となり、週に一度スタジオに集合するだけの日々が続いた。  横須賀に住み始めたヒカリは『ひまわり』でギターを担当する傍ら、『harbor view』の店長に『本町ストア』を紹介されて、そこで働くようになった。  聞いた話によると、ヒカリの両親も多摩(たま)── この横須賀に似て、米軍基地が近くにある環境下で中古レコード店を営んでいたらしい。  本人は父親から経営の(すべ)を学んだことがないと言っていたが。そこは受け継いだ血なのだろう。みるみる頭角を現して二号店の店長となり、今ではその経営の片腕を担っている。  運命とは不思議なものだ。俺は2杯目のグラスビールを傾けながら、そんなことを考える──  過去の事件でヒカリが生命(いのち)を絶ってしまっていたら。  目覚めたヒカリを見つけたのが俺達じゃなかったら。  全ての偶然が必然のように繋がり、そして今に至っている。  俺はヒカリと出会うまで── そしてヒカリを『ひまわり』に招き入れたことがきっかけで、仲間の秘密を知ることになるまで。  俺より奇特で特殊な人などいないと思っていた。俺だけではない。俺以外の『ひまわり』の面々もそう思っているに違いない。  まさに不思議な縁が折り重なり、俺達は今ここにいる。  こんな世の中ではあるが、先代のギタリストである新村 (ごう)を含めた俺の仲間達は幸せな日々を過ごしている。  折りしも、ようやくこうしてミュージシャンがミュージシャンとして再び立ち上がることができるようになってきた昨今。  みんなの幸せな生活を、より充実させるために。『ひまわり』の躍進に向けて俺も本気で取り組まなければいけないのだと思う。 (Next → Case 1:Rockin' on the 月光仮面)
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