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Case 1:Rockin' on the 月光仮面
昨晩は少し飲みすぎた。
俺がギタリストとして所属するロックバンド『ひまわり』のボーカルでありリーダーを務める田部井 誠治とライブハウス『harbor view』の店長と、ライブがなくバー営業をしていた店に遅くまでいてしまった。
寝床である不入斗にある丘の上のアパートを出る前に、魔術が込められた特製の宿酔い薬を服用したものの、まだ効果が現れないみたいだ。
時刻は9時半。開店の30分前に俺、神入 光は店長を務める中古レコード店『本町ストア二号店』のシャッターを開ける。
正面にあるカウンターが綺麗に片付けられている。
昨夜、値付けを終えただけで積み上げられたままだった夥しい数のCDは、閉店までを任せた店員が指示どおり仕舞ってくれたのだろう。
いつものように、ひととおり書架や什器にハタキをかけて床をモップで拭く。
この店に並ぶ中古レコードやCD、映像媒体やゲームソフトなどはセロファンのソフトケースで覆っているため、静電気のせいで埃が付着しやすい。
商品を取る客の手の汚れを少しでも抑えるため、開店前だけでなく定期的な掃除が欠かせない。
モップをロッカーに仕舞ってレジの鍵を開けようとしたところに、解錠しておいた通用口から背が低い女の子が入って来た。
「おはようございます!神入店長!」
俺の── カウンターの前に立ち、片方の腕を大きく挙げて甲高い大きな声で言うのは、開店時刻からの店員をお願いしているフリーターの女の子である一口 晶子。
「おはよう、いも子ちゃん…… 宿酔いだから、あんまり大きな声を出さないでくれる?」
「あら珍しい。マリーさんが作ってくれたお薬、飲まなかったんですか?」
「飲んだけど、まだ効いてこない」
『マリーさん』とは『ひまわり』のキーボード奏者で、俺の交際相手でもある。
俺がマリーちゃん── 今沢 真理恵と付き合っていることを知っているかどうかまでは知らないが。
一口 晶子は『ひまわり』のライブにもよく顔を出してくれるので俺達『ひまわり』メンバーの素性を知っている。知っているだけで、信じているかどうかは知らないが。
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