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いきなり乾いたギターサウンドのイントロ。徐々に楽器が加わりハーモニーを作り出す手法は、往年のアメリカン・ロックを彷彿とさせる。
やがてボーカルが入る。前身と言われるだけあって若いせいだろうか。聞き慣れたボーカルの声もどこか張りがあるようにも聴こえる。
圧巻はそのメロディーである。歌詞こそ誰もが知るものであるが、まったく違うメロディー。見事にロックしているのである。
「待てよ……」
椅子に座り直し、再びジャケットを眺めながら考えた。
「これって発売は何年?ここに親父宛てのサインがあるってことは、この頃の彼らと親父に交流があったってこと?」
俺の問いかけに向かい側に座る空はマスクを外し、差し出したコーヒーを一口啜ってから含みのある笑みを浮かべる。
「彼らの出身地って、ウチの近所の人ばかりだからね。3人組のグループ名の最初の2文字も多摩の略だって言うし。
1970年代の後半、レコードって若者にとってはまだ高価なもので中古市場も大きかったから、ミュージシャンやその卵達がお父さんと交流があっても不思議じゃないと思う」
感心する俺を尻目に、空はもう1枚の同じジャケットのシングルレコードを差し出す。
「不思議なのは、お父さんの部屋にどうして同じものが2枚あったか。見て、こっちの宛名」
1枚は『神入 巧さんへ』と書かれた、親父に宛てられたもの。そしてもう1枚の宛名は──
『石渡 彰さんへ』
「いしわた…… あきらさんとお読みするのかしら。おにぃ、この人知らない?」
石渡 彰…… 残念ながらその名前に聞き憶えはない。俺はテーブルに置かれたレコードを見つめて何度も首を横に振る。
「そっか。おにぃなら知ってるかな、って思って来てみたんだけど」
「すまぬ、役に立てなくて」
今度は空が俯いて首を横に振る。
俺は2枚のレコードをテーブルに並べて眺めてみる。
メンバーのものと思われるサインはその場所と大きさ、筆跡もほぼ一緒。であれば、これは2枚が同じ時に書かれたことを意味していないだろうか。
「多分、この2枚は同時に書かれたんだろうね。予めサインしたものを店に持って来たか、店に来た時にその場で書いたか。だとすると」
俺は立てた仮説を口にしてみることにした。
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