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「1980年頃のウチの店って、親父とお袋以外に働いている人っていたのかな。例えば、バイトの子とか」
俺と空がテーブルで話し込んでしまっているので。客が来る気配はないがアルバイト店員の一口 晶子がカウンターに立ってくれている。
俺の知る限り、『イイヅカレコード』はこの二号店よりも規模は大きかったはず。この二号店のようにアルバイトなどの店員を雇っていたとしても不思議ではない。
「親父の遺品に、雇用名簿とかないのかな」
「それは気付かなかった。早速帰ったら探してみる」
中古レコード店を経営していた俺の両親は、俺がギタリストとしてメジャーデビューしたことをとても喜んでくれた。
CDをたくさん買って、破格で店に並べたりもしてくれていた。定価で売れよ。って何度も思ったけど。
その後、俺が失踪してしまったことがきっかけで心労が重なり、まず母親が。それを追うように父親が相次いで他界したと空から聞いている。
母親が亡くなった直後に自分の死期を悟ったのか、店の在庫だけでなく私物のコレクションも全て売りに出してしまい店を畳んだのだと。
なので父親の遺品は残っていない。父親のものと思われるレコードを目にするのは、これが初めてかも知れない。
空が実家でこのレコードを見つけたことは、神入家にとって奇跡に近い出来事なのだ。
立川にある一介の小さな中古レコード店に出入りしていた、ヤンチャなミュージシャンの卵達。そんな連中がデビューし、テレビのCMにも起用され。
自分達が立派になったことを示すために、デビュー前にお世話になったことを感謝するために、このサイン入りレコードを贈ったのではないか。
そして父親の晩年。死期を悟り全てを処分しようとする中。今や押しも押されぬスーパースターとなった連中と、あの日のヤンチャな少年が重なる。
これだけは手元に置いておきたい。父親はそう思ったんじゃないだろうか。
だとしてもやはり。もう1枚の石渡 彰の存在が気になる。いったい父親と、そしてこのバンドの人達とどんな関係がある人物なのだろうか。
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