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俺の家は坂道の途中に建っている。右に行けば下り坂、左に行けば上り坂だ。
坂を上って行ってもあるのは家ばかりで、出掛けるときはいつも下り坂だ。その分、帰りは上り坂になって大変だけど。
街灯の灯りを頼りに坂を下りていく。
ザッザッと、サンダルがコンクリートの道に擦れる音だけがする。
まるで世界に俺しかいないみたいに静かな夜だ。
少し風が吹いてきた。あまり涼しくはないけど、まったくの無風よりはマシ。
髪が揺れて目にかかる。その髪をかき上げて空を仰ぐ。
「星、全然見えねぇな」
綿菓子を千切ったような薄い雲が、星を隠していた。月のある場所だけが、雲越しにぼんやりと光っている。
「うおっ」
石に躓いた。慌ててバランスを取り、転ぶことは免れた。
夜道だし、また躓かないように気を付けなければ。前を向いて歩き、冷房の利いたコンビニを求めて歩幅を広げた。
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