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鬼と怪談とわたし
うぅー、あっついよぉー
毎日暑くて耐えらんない。鬼もよくそんな赤い肌して涼しい顔してられるね。
「ワシの赤さは熱と無関係じゃからの」
そうなのかー
でも、見てるこっちはなんだか暑苦しいよ! 夏だけ青鬼になったりできないの?
「無茶を言うのう」
うー、ごめん。
じゃあさ、涼しくなるように怪談話しようよ。
「怪談?」
そ、怖い話。
背筋がゾッとすると暑さも忘れるでしょ?
「そうかの?」
うん!
ではまず、私から怪談を披露しよう。
コホン。
ひとつ咳をすると、私は声のトーンを落とし、無表情でゆっくりと語り出した……
実はね、鬼には言ってなかったんだけど、わが家には毎年夏になると、妖怪がやってくるのよ……
「妖怪?」
そう、その名も妖怪“塩なめ”。足音を忍ばせ、ヒタヒタ歩いて深夜の台所に現れては、そっと塩壷に手を突っこんでペロリとなめていくの……
「なんと」
……まあ、その正体は私なんだけど。
「お嬢が妖怪?」
いや、妖怪じゃないけど。
水ばっかり飲んでもトイレが近くなるし、塩をなめるとのどの渇きがおさまるんだよねー
「なるほどのう」
感心されてる!
うわー、全然ウケなかった。これ話すと、いつもは結構笑いがとれるのにー
「怖い話じゃなかったのけ?」
私に怪談話は無理だよー。
鬼はなんかある? 怖い昔話とか知ってそうだよね。
「そうじゃのう……」
鬼は少し考えてから、さっきの私と同じように声のトーンを落とし、無表情でゆっくりと語り出した……
昔、ワシら鬼の一族が隆盛を誇っていた頃じゃ……
財産を築き、立派な城を建てて豪遊しておった。毎晩宴会が開かれてのう……その日もみなで酒を飲んでおった。
騒がしく屋敷の門を叩く音がして、こんな夜更けに誰じゃといぶかりながら、若い鬼が外を見に出て行った。他の者は気にせず宴を続け、大声で笑い合っておった。
すると突然、門の外から若い鬼の悲鳴が聞こえたんじゃ。恐怖に引きつった、悲痛な叫び声じゃ……ただならぬ気配に場がざわめき、みな門の方を見た。
ギギイ……と門が開き、戸の隙間から、なにかがゴロゴロと転がってきた。暗闇の中、松明の灯りに照らされたそれは、若い鬼の首じゃった……そして、戸の向こうからゆっくりとそれが姿を現した……
真っ赤に染まった顔でニイッと笑ったそれは、ギラリと光る刀を手にこう言った……
つまらぬ、鬼とはかように脆弱なものなのか。まあよい、残らず退治してやるから覚悟せよ――そやつが言い終わるやいなや、突進してきた犬が鬼の首に跳びついて食いちぎり、槍を持った猿が別の鬼の腹を串刺しにした。おののく鬼達のもとへ、雉が目玉をえぐろうと空から襲ってきた――
桃太郎ぉーっ!?
「やつは逃げ惑う鬼を見ると愉快そうに高笑いし、次なる鬼の首をとろうと――」
話続けてるし!
怖いっ! 怖すぎるよ鬼! まさかそれ実話なの!?
「そんなわけなかろう。作り話じゃ」
ああ、そうなの……よかったー
桃太郎って、鬼の視点から聞くとめっちゃ怖いね。
「涼しくなったのけ?」
いや、全然。むしろ鬼達がどうなっちゃうのか気になって、熱くなっちゃったよ。
「ふむ、その後はの、最後に残った頭の鬼が泣きながら命乞いしたんじゃ。財宝は全てやるから助けてくれとな。するとやつらは車に宝を乗せて帰っていったんじゃ」
それ、現代なら強盗殺人罪だねぇ。
「まあ、その時生き残った鬼がワシなんじゃが」
え!? そうなのっ!?
お、鬼、そんなつらい過去が……っ?
「……すまん、冗談じゃ」
思わず血の気が引いてしまった私に、鬼はこまった顔で「ウケんかったのう……」と申し訳なさそうに頭をかいた。
*おわり*
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